2012-01-01から1年間の記事一覧

冬の鳥2編

「水鳥」 もうすぐ暮れる山の湖に 小さな影二つ三つ 水面にたたずむ冬の水鳥 はるばる北の国から飛んできて こんな淋しい水辺に降りたってー 君たち 今夜はここで眠るのかい 寒いだろうな 辛いだろうな 君たちの父や母はどこ? 兄弟はどこ? 冷たい風が吹く…

病んだ空

駅の明かりだろうか あのあたりの雲が 死んだ鯖の腹のように 白っぽく晒されて浮かんでいるよ ーいつの日からか この町は病んでしまった どっちを見ても 星のまたたきひとつない空で 旋回するヘリが 赤信号を点滅させている 自転車で 買い物に出かけた私は …

設計

多様な生き物を育む この惑星は 闇の空間にうっすらと浮かび 絶妙なバランスで 燃えさかる太陽の周りを回る なんという不思議だろう ごく薄い空気の層に包まれて 凍りつくほど遠くなく 焦げるほど近くもなく ゆっくりと 一日をかけて自転する 温暖な気候が育…

天上の旋律

楽聖モーツワルトは その天使の囁きにも似た軽やかな旋律を どのように紡ぎ出したのだろう 彼はいう 聞こえてくる天上の音楽を そのまま書き留めただけ 果たして そのようなことがあるのか 病魔に冒された彼の脳髄に ふと流れた旋律を 悪魔のものとは思わな…

山風

明るい木立のなかで ぼくらは出会った どこかで見たような顔だつた ーこんにちは 知り合いではないが ぼくらは声を交わす すれ違ったとき 互いのリュックがぎいぎいきしんだ 振り返ると 下りて行く赤い帽子が 木立のあいだに見え隠れする どこかで見たような…

稲妻

見渡すかぎりの視界に 転がっているテレビ 洗濯機や冷蔵庫はては 風に捲れ上がるビニールや新聞紙 この見捨てられた 堆積の中で 君には聞こえないか あの気違いじみた声を 風に飛ばされた ぼろ切れのように 空を舞う 数百の黒い烏の声を この光景の背後には …

暑い夜

夜空に濃密な大気が流れ 水飴状にうねりうねり はるかな星々は漂いながら 喘ぐように点滅する 弧を描く流れ星は 揚力を失い つぎつぎ落ちて 草むらを明るませる ほらあそこに 迷い螢のように ぼんやりと光ってる ほらあそこにもー 星のかけらを取って食べる…

(詩)鉛筆

肥後の守で鉛筆を削ると さくりとした柔らかい木の触感が手に残り 同時に新鮮な香りがぷんと来た それは小学校のころ 自然と調和する生活文化があったころ 珍しいだろ 職場の同僚が箱入りの一ダースの鉛筆を見せた 食べられるんだぜとぽきぽき折っては口に入…

やもりと蛾

日が落ちるとどこからか出てきて、窓の外側にぴったり張り付いている。やもりは、四本の短い足の、生まれたての赤んぼうのような五本の指を広げ、丸い吸盤でそのぶよぶよした体を支え、柔らかい体のすみずみから集まってくる体液にのどを膨らませて、じっと…

詩「わびる」

「ごめんください」は よその家を訪ねるとき 「ごめんなさい」は ひとに迷惑をかけたとき ほんとに言葉はややこしい 云わないでいいことを 云わないでいいときに云って そのために 時の人は階段をころげ落ち おとこはおんなと別れる すぐに「すまぬ」と あや…

ミュー中間子

浦島太郎はよく知られた日本の昔話だが、これをUFOに連 れ去られた実話だという人がいる。 カメの形をした円盤にのせられて、別な星への旅行に三年間 をすごし、帰ってきたところが百倍の三百年の年月がたってい たという。 光速に近い速度で飛んでいる物…

デニケン

いわゆる宇宙考古学なる分野は、この地上における人類の進 歩や進化が、それ自身の主体の変化により自発的になしとげら れるものだという通常の考え方に対立する新しい考え方である らしい。 ドイツ系スイス人、エーリッヒ・フォン・デニケンなどが提 唱して…

チェス

最近の傾向では、SFを「サイエンス・フィクション」では なく、「スペキューレティブ・フィクション」〔思考小説)と 考えるべきだという主張があるそうだが、エドモンド・ハミル トンという人の書いた「フェッセンデンの宇宙」を、そうした 逆説思考とし…

カオス

北欧に伝わる古詩「エツダ」によると、この世界ははじめ海 もなく土地もなく草一本生えていず、ただギンヌンガ・ガップ という巨大な空洞があるだけだったという。この空洞の北側に ニブルヘイムという氷と霧の国があり、そこの泉から流れだす 毒を含んだ川…

SF(エッセイ)

SF いかにももっともらしいが、現実の事柄として考えると、は て、どんな意味があるのだろうと考えこまざるを得ない考証例 がある。 メビウスの輪は、表をたどっているものが、いつのまにか裏 の方へまわってしまうのであるが、クラインの壷(つぼ)は、 …

私という存在

「私」とは何か。「私」はどこに存在するか。水や岩石などの鉱物をはじめ、樹木や草などの植物は「私」を意識することはないだろう。彼らは自然の一部であり、在るべくしてそこに在る環境そのものだから。一方、自然や社会を含め、外部の環境は「私」とは別…

言葉での存在

この地球上において、人類は他の種を圧倒して増え続けている。2000年で60億人、2050年には91億人になるそうだ。火と武器を手にした人類は、この地上の君主となり、他の動植物を支配し、自分勝手に自然を乱開発してきた。そして、今は、ロケット…

何のために詩を書くのか

私は、昔から文章の細部にこだわる癖があった。客観的に正確に書けているかが気になり、自分で書いたものを何度も読み直して手を入れてしまう。その結果、形容詞が重複して冗漫な文章になったり、主題から外れて迷路に迷い込んだり、いつも順調に終わったこ…

評論(幻想の泉鏡花)

幻想の泉鏡花 前日の参議院選挙の速報か次々発表される月曜六時半、市内のむし暑い一室では、そこだけは別世界のように、今年で十五年目になろうとする読書グループ近代文学研究会が聞かれていた。 明治二十四年、牛込の紅葉の門下にはいって以来、昭和十四…

詩(工場)

工 場 草の茂った丘を のぼって行くと 下の作業場の 窓から見上げる娘と 目が合った娘の両わきで 若い二人の男が くすりと笑う (あれはただの幻覚だったのか) 木洩れ陽がゆれて さっと風が過ぎると 人影が消え もう窓には誰も居ない昔からそこにある 小さ…

詩(あやかしの森)

あやかしの森 オレンジ色の壁には クリムトの絵ーもちろん複製の 仰向いた女の顔が懸かっていて 閉じたガラス窓の内側で ディスクの音楽は嫋嫋と鳴り渡り いつか 見知らぬ森の中を歩いていた碁盤の目状の 一定の間隔をおいて 整然と立ち並ぶ樹々 そこは風の…

詩〔幻)

幻ある晴れた日 小高い山に腰をおろして 下の畑を飛んでいくスカーフを見た ーそれは茶畑の上を舞う 白い鳥に過ぎなかったがーその山の上から眺める景色は すべてがうっとりと美しく 非現実的な悲しさを湛えていた ーあのころ 私は世間をむなしく 疎ましいも…

詩(土手)

土手夕暮れの土手を 人が歩いています 川面の照り返しで すこしあかるい 上着の裾を翻しながらー土手の下は 黄色い菜の花でいっぱい なのにその人は その美しい彩りには まるで気付かない風に 長い土手の道を すたすた歩いているのです何か 急ぎの用でもある…

詩〔蟻)

蟻えっさかほい 蟻が一匹 えっさかほい 急な坂道 えっさかほいぴんと張った触角は二本 踏み締める足は前後六本 登るはしから ぱらぱら崩れる砂もなんのそのだけど難儀は 時折落ちるごろた石 やっとのこと 登りつめたと思ったら おっとと転げ落ちたやれやれ …

詩〔空)

空小さな部屋の窓辺で 私は空を見上げています空は吹っ飛んだように しんからりと澄んでいて 穏やかな風が 白いカーテンを揺すります 何もない青空 何もない空虚な部屋 私は今も考えています あなたは どこに行ったのかとたしか あの荘重なハープの調べが 空…

くさはら

くさはら かぜのつよい つきよのはらで あおいうさぎが はねているおくやまの くさむらわけて どどっとうずまく かぜのなか ゆうれいうさぎが みみをそよがせ たかくたかく とびはねるごらん くるるるると せわしくまわる あのぎんいろのめを なかにもえてい…

詩(16)

夏の終わり 砂浜に座っていると 海の向こうからやってくる 鮫の歯並みが見える 波の上で 突然 黄色い友人の姿が消えた 太陽がストップした 海はこれまでになく沈みこむ 低い雲間から 伸びた巨大な手が その上を漂い 何かを探しつづける 海に突きでた 岬の海…

詩(15)

井 戸 庭の片隅の 昔の井戸を覗くと 少年の頃の私が見える とんぼとりの網は持ってないが 少し痩せた私が 白い歯を見せて笑っている 井戸の中の空は まあるく区切られていて 抜けるように青い空から さあっと あの時分の風が吹いてくる 見てごらん あそこに…

詩(14)

逆 行 長い時の回廊の突き当たり 真っ白い扉を開けると そこは夜の国 凍てつく氷の世界が広がっている 思いださないか 夜の国の駅には 失われた昔の時間が そのまま閉ざされていて 私を出迎えるのは あの頃のおまえと幼い子供たち (やっと帰れたね) (ああ…

詩(13)

記 憶月夜の河原で青い石ひろった どこまでも明るい河原を 水はさらさら流れてた 白い砂の上で青い石みつけた 手のひらにのせると ひんやりと 冷たさが心に沁みた たちまち ずっと昔の記憶が戻ってきた 生まれる前のことが心に浮かび 死を超えて転生する魂の…