2005-11-01から1ヶ月間の記事一覧

竹林(27)

裏で爆竹がはぜている。また、近所の悪がきが集まっているのだろう。連中ときたら後始末は絶対にしないのだから。 ちょうど葉代りの時期で、裏の竹林のあたりは剥がれ落ちた竹の皮や葉でいっぱいだ。小さな火種でも火事の原因になりかねない。私は家を出て、…

故郷の夢(26)

都会の空に木枯しが吹きわたり、震える電線が憂鬱なスケルツオを奏でる。広告塔を揺する低い雨雲が、見る間にちぎれてぼろぎれのように飛んでいった。 故郷の田舎へこれから帰るべきか、とある橋の上で息子は迷っていた。 橋の向こうにぼんやりと人影が浮か…

長い魚(25)

子供の頃、川でよく魚を捕っていた。流れには、はやが多かったが、岸の石垣の間にはそこを棲み家とするどんこやなまず、うなぎもいた。 うなぎは体全体が黒くて長く、ぬるぬるして捕まえにくい魚だ。口は意外に小さいので、餌をつけた針を呑み込むとなかなか…

杉林(24)

林の中は暗く、雨上がりのようにじっとり湿っていました。うっすらとした月明かりの中で空を指して立っているその杉の林は、誰かが定規かなにかで真直ぐ平行な線を描いたようで、杉の部分は黒く、そうでないところは白く、そして、遠くになるほど霧がかかっ…