2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

物体(3)

何やら、いやに狭い所で眠っている様な気がしていたが――眼が覚めてみると、死んだ蛇のよう なへんにしらじらしい光が枕元に漂っていて、私の寝かされている部屋の模様をぼんやりと見せて いた。 (しかし、まあなんと奇体に狭い部屋だ)人が一人、やっと坐る…

物体(2)

判りにくい地図である。斜めに差しこんだ月の淡い光では、只さえ読みづらい走り書きの文字は ちらちら動いて眼が疲れ、点々と紙の上に浮び上ってくる数々の記号も、その間を走るかすれた幾 本もの線からも、その意味するところを判断するためには困惑を与え…

物体(1)

激しい西日である。 眼に映ろものはすべて――うねうねとつながる岡の起伏も、ゆっくりと汽車が行く遠くの白い橋 も、木立の間、見え隠れ点在する藁葺屋根、波うつ麦の重い穂先までが――今は一様にあかあかと した色どりの中に燃えているその輝き、その眩い残照…