2005-06-01から1ヶ月間の記事一覧

巨人(6)

小屋の中は夥しい数の道具の山だった。無秩序に放り込まれたそれらは、梯子や釣瓶、かめなどの日用雑貨はもとより、鍬、鋤、むしろ、鎌などの農具に、木槌、へら、糸車などの工具類も含まれ、小屋の天井まで乱雑に積み上げられていた。 全体が、ふわふわした…

虫の女(5)

どうも私はしょうもない人間のような気がします。いえ、これは今ふと思ったことでなく、ずっと前から感じていた私自身の性格に対する嫌悪の気持です。 その日私は、鉄道を見下ろす場所にいました。かといって別に鉄道自殺を考えていたわけではありません。た…

悠久の河(4)

ここは何処だろうか。水平線は茫洋と霞んで見えず、見渡す限り、茶色に濁った水だけが広がっている。 水はゆっくりと、私を乗せた小さな筏ー一枚の厚い板切れを押し流している。多分、ここはどこかの大きな河口だが、高い空で羽ばたく鴎のほかは、行き交う舟…

故郷(3)

極北のさびれた離島の村である。 硬い岩と砂に覆われた不毛の土地が続き、風が強く植物はみな地面を這うように生えている。 小さなとくさに似た植物。その茎にすがるようにのろのろ這う甲虫。 地元では「志度」あるいは「和沖」ともいうこの島。ヘリポートか…

北の王子(2)

今、私の眼の前には小さい氷の塊がある。机の上のトレイの上に乗って、少しづつ溶け始めている。もう三分ぐらいで無くなってしまうだろう。これは正確にはひょう(雹)というべきで、たった今、空から落ちてきたものを拾ったものだ。あと三分。私は引き出し…