2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

花(64)

小屋の戸をがらり開けると、外は白い霧。 どこまでも続く霧の中に、ああきれいなこと。無数の蛍が飛び交っている。青い螢、赤い螢、小さな螢、大きな螢。まるで飛んでいる無数の魂のよう。 あれは幸福な魂。あれは悲しみの魂。笑っている魂。苦しんだ魂。欲…

水妖(63)

ーあれは何処だったのだろう。ひょっとして、あれは夢の中の風景だったのか。あの景色がパズルのように、すっぽりと心の奥に納まった時から世界は虚しくなり、わたしの心は、ずっとあの風景ー暗い樹影を落した静かな沼の岸辺に、囚人のように繋がれている。 …

小さな人間(62)

こけた頬、くすんだ暗い顔から、窪んだ眼が疑い深そうにこちらを見ている。 「君があの時の‥‥」 「そうです。転校してきたばかりでした」 「いや、悪かった。あの頃は時代も時代だったし‥‥私も若かった」 「それにしても殴ることはなかった」 私たちは校舎の…