詩〔幻)

     幻

ある晴れた日
小高い山に腰をおろして 
下の畑を飛んでいくスカーフを見た 
ーそれは茶畑の上を舞う 
白い鳥に過ぎなかったがー

その山の上から眺める景色は 
すべてがうっとりと美しく
非現実的な悲しさを湛えていた 

ーあのころ
私は世間をむなしく
疎ましいものとしていたが 
思えば 
そんな私自身遠い異国の流民に似て 
幻のようにはかなく 
寄る辺ない存在に過ぎなかった

あれから幾年経ったろう
あの悲しげに ぎぎい くわらと鳴く
白い鳥は見えないが
いまふたたび
空気のきれいなこの場所にいて
同じ空を見ていると
当時の切なさが戻ってくる

ぎぎい くわらー
谷間から流れ出る雲は
彼方に浮かぶ 
かぐろい山々をかすめて
砕け散り
白いスカーフの幻影となって
飛び去っていくのだった