詩(15)

  井 戸

庭の片隅の 
昔の井戸を覗くと 
少年の頃の私が見える
とんぼとりの網は持ってないが 
少し痩せた私が 
白い歯を見せて笑っている


井戸の中の空は 
まあるく区切られていて
抜けるように青い空から 
さあっと 
あの時分の風が吹いてくる


見てごらん 
あそこにあなたも映っている
井戸の中の青空で 
あなたが笑っている





  窓


迷いこんだ裏小路は
どこか懐かし
白い土蔵の家並み
いつか来たことがあるよな
そのゆきどまり


向こうの二階の窓で
母と子が遊んでいる


門前に桜の花びらが
はらはら舞っていて
それは芝居の書割に似て
どうということもない風景だが


窓に見える母子の面影は
忘れられぬ古い悔恨のように
物悲しく
私は打たれた杭のように
その場に立ちつくす