2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

自画像(23)

冬のある日、アトリエの前のベンチに腰掛けて、一人の老人が、向うのひときわ高い山を眺めている。もう一時間にもなるだろうか。老人は動かない。 山は鋭く尖っていて、ところどころに積った雪が白い筋になって見えるが、あとは凍りつき、切り立った岸壁で、…

いのち(論考A)(22)

死後の世界を見た者はいない。生きている誰もが最後に行くところなのに、誰もがその世界を想像するだけで、ほんとうのところを知る者はいない。考えられることは、そこが物質というものがまったくない国ということだ。物質のない世界、それはどんな世界だろ…

からくり絵巻(21)

昔ーと云ってもそう遠い昔ではない。昭和の初めぐらいまでの旧家には、隠居部屋というものがあったものだ。つまりは、現役を引退した老人が余生を過ごす部屋なのだが、私の家にもそれらしき場所がある。 今は不要品の倉庫がわりに使っている中二階のうす暗い…

空間(20)

どうも打ち上げは失敗したらしい。私が乗った宇宙船は地球を回る軌道を大きくはずれて、太陽系の外へ飛び出し、今は未知の天体の引力に引っ張られている。 行く手に見えるのは、リングの形をした暗い星雲。そこから放たれる強い磁力に引き寄せられ、私の乗っ…