デニケン

 いわゆる宇宙考古学なる分野は、この地上における人類の進
歩や進化が、それ自身の主体の変化により自発的になしとげら
れるものだという通常の考え方に対立する新しい考え方である
らしい。
 ドイツ系スイス人、エーリッヒ・フォン・デニケンなどが提
唱している理論であるが、かなり強引で独断的なところが見う
けられるものの、半面一種知的な冒険じみて面白い。
 エジプトのピラミッド、ナスカ平原の地上絵、インカマチュ
ピチュの遺跡、レバノンのパールベック神殿など、これら巨大
遺跡が、当時の原始的な人力だけでは、とうてい不可能な事業
だとし、これを、高度な文明をもった宇宙人の技術によるもの
だとしている。
 また、世界の各地に残る異様な人物の壁画を例にあげ、さら
に、旧約聖書やインドの古文書の中の記述から、宇宙人来訪の
証拠をかぞえ、太古に行われた核全面戦争の存在まで立証しよ
うとしている。
 パールベック神殿の二千トンの礎石は、世界最大のクレーン
をもってしても吊るせないだろうし、マチュピチュの二万トン
といわれる石は、ひっくり返されて、階段が逆さまになってい
るという。旧約のエキゼキル書には、着陸するロケットのよう
な怪物の記述があり、ソドムやゴモラは核ミサイルで攻撃され、
叙事詩ラーマーヤナには、空飛ぶ機械ヴィマナを、四方が鉄で、
羽根をもつ戦車という風に記述する。
 たしかに話をわれわれの住む銀河系にかぎっても、千億とい
われる太陽の百億が惑星系をもち、そのなかには人類のように
知性のある高等生物が他にいくつか存在しても不思議はなく、
ある時期、それらが宇宙回遊種族としてこの地球を訪れるとい
うことは考えられる。
 しかし、デニケンのいうように、地上に降り立った宇宙人=
神が彼らの姿に似せようと、未開な人類の頭脳を改造し、遺伝
子の組成を変えて人類の進化を促したのだという論旨にはつい
ていけそうもない。