詩(あやかしの森)

   あやかしの森     


オレンジ色の壁には
クリムトの絵ーもちろん複製の
仰向いた女の顔が懸かっていて
閉じたガラス窓の内側で
ディスクの音楽は嫋嫋と鳴り渡り
いつか
見知らぬ森の中を歩いていた

碁盤の目状の
一定の間隔をおいて
整然と立ち並ぶ樹々
そこは風のない森
鳥も住まない人工の森
そしてかすかに漂う
作為の香り

苔の絨毯を踏んで歩いていくと
とある樹の幹に
ひとりの女がもたれている
近づくとクリムトの女で
あの失神した表情のまま
ただ疲れきり
いびきをかいて眠っているのだった 

ー音楽の注文は?
とそのとき店主の声がした

ガラス窓の向こうには
いつもと変わらぬ原色の日常
そしていつものように
ゆっくりと熟れていく日常がある
限りなく堕ちていく世界がある

大丈夫?あなた
目を開けていられる?
クリムトの女が尋ねる