2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

獣の眼(下)

いったい、どの位の月日が経ったであろうか。おまえは時間の観念をすっかりなくしてしまって いたので、全く見当をつけることが出来なかったが……。 ――その日は、朝から妙に暑苦しく、おまえは檻の奥の日陰になったところで、冷えびえする壁 に体を寄せ、舌を…

獣の眼(中)

――生きるということがどのように行われるか――もし誰かがおまえにそう尋ねて見る気を起し たとしたら、おまえはその時こそきっぱりと答えるだろう。そうだ、生きるということは順応して いくことなんだ。 もちろん、おまえがこのようにきっぱりと自分の考えを…

獣の眼(上)

なにがどうなのかさっぱり分らない。まわりは真の闇、一寸先も見えない。完全な網膜像の喪失 ――第一自分がどんな形をしているやら、手をもっているのやら、足がついているのやら、それす ら感じられない。まわりには息苦しい闇が一杯だ。一体どっちが下だろ…