詩(土手)

   土手

夕暮れの土手を
人が歩いています
川面の照り返しで
すこしあかるい
上着の裾を翻しながらー

土手の下は
黄色い菜の花でいっぱい
なのにその人は
その美しい彩りには
まるで気付かない風に
長い土手の道を
すたすた歩いているのです

何か
急ぎの用でもあるのでしょうか
すこし右肩を下げ
足早に行く君よ
やがて
這い上がってくる川霧が
遠くなっていくその姿を
ぼんやり包むことでしょう

そしたらもうここは
君が通ったことなど
誰も憶えてもいず
菜の花の香りだけが漂う
場所になるのです
 
(どこから来たのですか) 
川面の光が
ひたひたゆれながら
そっと訊ねます
 (これからどこへ行くのですか)
でも 
君の耳には何も届かず
先を急ぐばかりです

 (さようなら)
菜の花たちが一斉に
小さい手を振っています
 (もう 会えないのですね)