詩〔蟻)

    蟻

えっさかほい
蟻が一匹
えっさかほい
急な坂道
えっさかほい

ぴんと張った触角は二本
踏み締める足は前後六本
登るはしから
ぱらぱら崩れる砂もなんのその

だけど難儀は
時折落ちるごろた石
やっとのこと
登りつめたと思ったら
おっとと転げ落ちた

やれやれ
落ちたとこから
これはこれは
黒半纏
ひげ面の大将立ち上がる
汗をふきふき起き上がる

昼なお暗い山の裾
あれは人だったのか
蟻だったか
さてどっちだったか
どっちにしても
その坂は
地図にもない坂道で
だれかがその次第
とっくり見ていたわけじゃない

えっさかほい
蟻が一匹
えっさかほい
大将がんばれ
えっさかほい…