朝、正義

    朝


ちんけなからくり時計の中
金に心を失った者
自らの悪臭にまみれ
獣となった者たちの夜が明けた


アパートの階段から
無数の白い鳩が転がり落ち
またゆっくりと陽が昇る


空腹の街から
別な生命の形が空に現われ
腐れた肉の街を見下ろす時
紙幣は武器にすりより
新らしく見いだされた
恐怖の観念が街を支配する


ああそのとき
高揚した思想は
正義の名のもとに
無辜の命をおとしめ
互いの領土を破壊しようと
あらゆる手を尽くす


ああそのとき
陽のうてなは朱色に輝いて
愛と憎悪のはざまで
弱々しく揺らぐ小さな蒼い星を
涙ながら抱きしめる


そして
地上の人々は
担いきれぬ重荷を
それぞれの心に抱え
汚れた沼の中で
悲しい朝を迎えるだろう



    正 義

身内に対しての愛や暴力への恐怖が
ときに正義の仮面をかぶることがある
また他人への憎しみが正義になることもある
人は物事を多面的にとらえることで
本質を冷静に判断しようとはせず
人間関係を曖昧にしておくことができず
現在の自分の気持ちを純化したい衝動を抑えきれない
異民族間の抗争では生き物としての弱さが
さまざまな形をとって吹き出してくる
なぜ他人を愛し信ずることができないのか
なぜ疑惑や憎しみの目でしかひとを見ることがないのか
それらは結局巡り巡って自分を亡すだろうに