「寓話」出版かれこれ

 ずっと以前、「獣の眼」という幻想短編小説集を出したことがあったが、そのときは、福岡の葦書房という出版会社からだった。同人誌「城」に書いた小説がいくらかたまったので、出すことにしたのだが、今からすれば、よく千部の部数が捌けたものだと思う。こんどは2百部なので、知り合いや、県内図書館などに送ったが、まだかなり余る。
 佐賀駅構内の積文館書店は、店長が優しい人で、すぐに郷土のコーナーに置いてくれたが、モラージュの宮脇書店大和町ジャスコの熊沢書店では、問屋経由でないとということだった。書店でも、あらかじめ売れる本は決まっているようで、そういう本を一番目立つ店頭に並べている。詩や小説でも、既成の価値観や知名度に従って陳列されているようだ。
 大手出版社から出る本も、文字離れの昨今、表紙のデザインに漫画を取り入れたりして、目を引こうとしているが、それは内容とは関係するものではない。今の出版社には知的冒険心というものがない。葦書房には、もう故人となったが、久本三多という編集者がいたが、地域の動きに目をくばる努力家だった。記憶遺産になった「筑豊炭鉱絵巻」(山本作兵衛)も、彼が発掘したものだ。
 コンビニやスーパーには、決まった物しかないが、書店には、多様性が欲しい。もちろん、多様性を受け入れる土壌も必要だが・・・。
  
 昨年七月初め、熱中症を患い、その後、妻が脳梗塞で倒れた。三か月のリハビリと入院生活の後、妻は特別養護老人ホームに入所した。左半身麻痺で車椅子の妻は、戸口で、いつも私が見舞いに来るのを待っている。
 この詩集は、妻の勧めもあり、いわば「墓名碑」として出すことにした。