詩(わびる)

わびる    


「ごめんください」は
よその家を訪ねるとき
「ごめんなさい」は
ひとに迷惑をかけたとき


ほんとに言葉はややこしい
云わないでいいことを
云わないでいいときに云って
そのために
時の人は階段をころげ落ち
おとこはおんなと別れる


すぐに「すまぬ」と
あやまればいいものを
ごたごたを起したあとで
何度もあたまを下げるのは
ごくふつうのひと
けれども
いちばん偉い人は
おもむろにまわりを見回し
「いかんである」と云って
もめごとの幕を引く


因縁のけんか相手にも
「わるかった」とひとこと
素直にわびることができるなら
地球もまるく収まるのだが
たとえ兄弟であっても
自分をおびやかすのはかたき
こんな時ここに正しい神がいて
公平にさばいてくれたらいいのだが
その神たちがけんかしている


だからここを支配するのは
武器や金にあざとい者
おとなしい負けぐみは
黙って前線を引き下がり
「てんかごめん」の
勝ちぐみが自由をおうかする


でも神との誓約からとかれた者は
限りない人間の欲望の
その結末をだれにわびるのだろう
金の亡者が食い荒らす
いのち育む土
自然の破壊を
「ごめんよ」「わるいわるい」
いくらあやまられても
やりきれない森林かいはつ 
かんきょう汚染や原子ばくだん


こんな迷惑なこと
地面にあたまをこすりつけて
いくどあやまってもらっても
取り返しつきゃしない
もうこれ以上
「ごめんこうむる」
やめてくれ