長い魚(25)

kuromura2005-11-10

 子供の頃、川でよく魚を捕っていた。流れには、はやが多かったが、岸の石垣の間にはそこを棲み家とするどんこやなまず、うなぎもいた。
 うなぎは体全体が黒くて長く、ぬるぬるして捕まえにくい魚だ。口は意外に小さいので、餌をつけた針を呑み込むとなかなかはずすのが厄介で、腕にぎりぎり巻き付いてくる。考えると、昔は子供ながら殺生なことをしていたものだ。
 俺はいま、大工の仕事をしている。棟梁にいわれて、トラックに壊された軒桁の寸法を計るため、朝からバイクで出かけたのだが、途中橋を渡る前の踏切で、長いこと待たされている。
 無蓋の貨車がトロッコのようにえんえんと繋がっているのだ。ここは駅に近く、切換えの関係で、地元では開かずの踏切と言われる有名な場所。買い物かごをさげたおばさんたちも、諦め顔でじっと我慢している。
 周りの人に聞けば、貨車はやたらと長いものを積んでいるという。俺はバイクをその場所に置いて、そばの陸橋に駈け上って貨車を見下ろした。電信柱でもない、ロケットでもない、黒くて長い物体が、連結された貨車の上に横たわっている。
 それはかって見たこともない途方もなく巨大なうなぎで、ビニールの仮水槽のなかでぬたくるように泳いでいる。
「あれは、一体なんだ」
 陸橋の上では、集まっている沢山の人が、長い魚を見下ろして騒いでいる。
「皆さん、どうぞお静かに。魚を観た方は記名投票して下りてください」
 ひときわ大きい声が聞こえたので振り返ると、迷彩服を着た若者が、机を前にして椅子に座っている。この魚の名を一般募集しているという。俺は、紙にかわなと書いて出したが、今もって、あんなうなぎがいたことが信じられない。