本の山(57)

kuromura2007-08-01

 本というのはどうしてこんなに増えるのだろう。日本近代文学大系や、西洋文学全集などの全集ものは別として、時たま立ち寄る書店や古本屋で、買い求めた書籍がもう書棚に納まりきらず、机の回りに山積みになっている。ほとんどがすでに読み終えたもので、処分してもいいものばかりだが、なかなかその踏ん切りがつかない。
 今日は、思い切って整理しようと、いきつけの古本屋に電話したのだが‥‥‥。
 今、部屋の中であちこち動きまわっている二人は、確かに本屋の店員だろうか。あまり見たことのない若い顔はのっぺりと白いが、灰色じみた服は、ずたぶくろといった感じのものだ。長い袖やズボンの裾をひらひらさせながら、脚立を立て、書棚を覗き込み、手当りしだいに本を下に投げ下ろしている。
 すでに部屋の真中には天井に届くくらいの本の山ができていた。
「この山一つ五千円だな」片方の一人が云うと、「いや、三千円!」もう一人が言い返す。まったく冗談じゃない。そんな値段じゃないはずだ。
 かっとなった俺は、つるつる滑る本の山に駈け登り一冊を取り上げた。
「ほら、これは初版本だよ。これだけでも五千円はするはずだ。それから、これは‥‥」
「もう、大分傷んでますからね。べつに、このまま全部置いて帰っていいですよ」
「じゃあ‥‥‥交渉決裂だな」
 俺は本の山の上で突っ立ち、二人を睨み付けた。
「帰れ!だいたいおまえらは、さっきから見ていると、本に対する愛情のかけらもなく、本を物のように扱っている。それでも日本の文化を担う本屋のつもりか」
 俺は、二人に本を投げつけた。
「帰れ、こすからい商売人め」
 二人は、兎のような赤い目を剥き、本の山の中で立ちすくんだ。