ここは何処だろうか。水平線は茫洋と霞んで見えず、見渡す限り、茶色に濁った水だけが広がっている。
水はゆっくりと、私を乗せた小さな筏ー一枚の厚い板切れを押し流している。多分、ここはどこかの大きな河口だが、高い空で羽ばたく鴎のほかは、行き交う舟の影もなく、私の耳には、筏にひたひたと寄せる波の音しか聞えない。
なぜ、私はここにいるのか。どうして筏に乗っているのか。私には思い出せない。私は記憶をなくしたのだろうか。
それにしても暑い。真上から照りつける陽ざしがじりじりと肌を灼く。暑さに耐えきれず、小さな椀で何度水をかぶったことか。
私が持っているものといえば、その小さな木の椀一個だけだ。体にはどうにか衣類らしいものをまとっているが、シャツもズボンも原型をとどめないほどに破れている。
さっきから私は泥亀の肉を噛んでいる。その亀は筏の端でひなたぼっこをしていたものを捕まえたものだ。肉が硬いので、なかなか噛みくだけない。
赤い太陽が西のほうに傾いている。もうすぐ陽が沈むだろう。もし、明るいうちに人が乗った舟と会わねば、この筏はそのまま海に出てしまうだろう。
かもめが一羽筏の先に止まり、亀の甲羅を突いている。
私が死んだら、ああいうふうに私の体をついばむのだろう。私はどこから来たのか。なぜここにいるのか。それにしても、私はどこまで行くのだろう。
あたりを真っ赤に染めて陽が沈み、紫紺の空に小さな星が出てきた。
この河はどこに注ぎ、私はどこの海に行くのだろう。
百光年、千光年彼方の宇宙の光塵があたりに降り注いでいる。