故郷(3)

 極北のさびれた離島の村である。
 硬い岩と砂に覆われた不毛の土地が続き、風が強く植物はみな地面を這うように生えている。
 小さなとくさに似た植物。その茎にすがるようにのろのろ這う甲虫。
 地元では「志度」あるいは「和沖」ともいうこの島。ヘリポートから続いている波打つ舗道が途中で途切れていて、その先は海。どこまでも真っ青な海だ。
「先生‥‥ですか」  
 振り返ると島の人たちが出迎えている。十人ぐらいは居るだろうか。
「ようこそおいでくださいました」
 漁夫や農夫に混じって、黒い紋付を着ているのはこの島の村長だろう。
「なにもない島ですが、さ、どうぞ」
 事務服を着た男が先に立つ。
 低い家並が続く集落を通り、役場の職員らしい男が案内したところは、少し大きめの白い木造の洋館。ここが役所の仕事をする場所だろうか。
「学校は?」
「すぐ隣です」
 窓から隣に平屋の建物が見える。案内されて入った教室はがらんとして誰も居ない。
「生徒は二人ですが、今日は来てないようですね。家の手伝いとかあるのでしょうね。なにしろ貧しいものですから」
 教室の片隅に琴に似た楽器が置いてある。ばらぼんというそうだ。窓からは気持のいい海風が入ってくる。
「とてもいい島ですね」と言うと、
「こんなところが」
 とあざけるように事務服がいう。
「でも‥‥君はここの人でしょう?」
 故郷を馬鹿にしてはいけない。どんなに貧しくとも、故郷は誰にとっても一つしかないのに。私はそっと呟いた。