どうも私はしょうもない人間のような気がします。いえ、これは今ふと思ったことでなく、ずっと前から感じていた私自身の性格に対する嫌悪の気持です。
その日私は、鉄道を見下ろす場所にいました。かといって別に鉄道自殺を考えていたわけではありません。ただ、漠然と町のごみごみした雑踏から離れたいという気持で、散歩がてら歩いてきたところがこの崖の上だったというわけです。
崖の上からは、町を横切る鉄道が見えました。どこまでも続く線路と、その上をのろのろ走る電車はわけもなく心を慰める風景でした。
崖の上は、高速道路の造成中で、道の先には新しいトンネルが見えました。
そこはまだ車も通れないほどぬかるんでいて、歩くのもおぼつかないほどでしたが、私はトンネルのほうへ向って歩きだしました。トンネルの先にどんな景色が続いているのか見たいと思ったからです。
トンネルに入ったところで、私の心臓はぴくりと震えました。
うおんうおんという妙な音が後からついてくるのです。それは女のあえぎ声によく似ている音でした。
振り返るのが怖いという思いと振り返って確かめなければという思いが半ばして、私はとうとう振り返りました。
私は見たのです。その時、巨大な黒いくわがた虫が、大きなかまを振り上げて後を追ってくるのを。
怪物は泣くような声で呼びかけます。
「待って。わたし怖いのよ‥‥分らない‥‥なぜこんなことになったか‥‥‥どうして、待って呉れないの‥‥怖いのよ‥‥」
怨むような女の声が、いつまでもトンネルの壁に反響します。そして‥‥トンネルの先は行き止まりのようです。