詩(蛙)

田植えが済んだ田圃では
げろっく げろっく
夜どおし蛙が鳴いている


あたり一帯に
たなびく白いもや
水中でやんわり広げた
長い手足が
ぴくりと縮む
しゅっしゅっと
畦草を分けるかすかな音がして
通り過ぎていく
濡れた黒い帯


蛙はあわてて
水底へー
立ち上る煙幕が
やや薄れて
ぷかーり 
泥水から飛び出した目
下半分で水の中
上半分で空を見る


今夜は月もない
月もない空から
ねっとりした大きな唇が
下りてきて
うめー
あたり一帯に響き渡る声で
白いもやを吸いとっている


蛙の目がぐるり 
上を見て下を見て
また
げろっく げろっく
なきだした
鳴きだした