詩(海)

ぼくは
波の上に光る珠を捉まえようと
赤い海に船出する


波の中からさまざまの怪物が現れて
行く手をさえぎる
海底三万哩の大鮹や
エイハブ船長の白鯨
なかでも海一面にぬめぬめ広がる
赤い水母の群れは恐ろしい


進もうとするたびに
船の切っ先は何度も押し返される
飛び散る赤いしぶきが
頭上に降りかかる


いったいここは何処だろう
ひょっとして地図にもない場所に
迷い込んだのだろうか


陽の光は遠くたなびき
聞こえるのはただ
船べりを叩く波の音


空は鉛色に染まり
海は一枚の墓碑のように
低く低く沈みこむ


あれは幻想だったのだろうか
波の上に踊る光る珠
黄色い月が
あざ笑うように上がってきた