小さな影
庭の木に
白いものがかかっている
春の朝
眺めている遠方の空から
おおい おおい
死んだ妹が呼んでいる
白い雲が下の方に垂れ下がって
その下から歩いてくる
小さな影が呼んでいるのだ
私は黙ったまま
机に頬杖をついてその声を聞いている
井 戸
庭の片隅の
昔の井戸を覗くと
少年の頃の私が見える
とんぼとりの網は持ってないが
少し痩せた私が
白い歯を見せて笑っている
井戸の中の空は
まあるく区切られていて
抜けるように青い空から
さあっと
あの時分の風が吹いてくる
見てごらん
あそこにあなたも映っている
井戸の中の青空で
あなたが笑っている