金色の蛇(96)

kuromura2010-01-03

 金色の蛇が低い木に巻きついている。このマングローブの森には背の低いヒルギ科の植物が広がっていて、干潮時の湿った地面には蟹やトビハゼが這っているが、蛇がいるのは珍しい。それも黄金色の蛇だ。なにかの餌を獲りに来て満ち潮で帰れなくなったのだろうか。それにしても、ここらにはこんな蛇が住んでいるのだろうか。
 蛇はオヒルギの木のまたのところに居座ってちょろちょろ赤い舌を出している。 いつか家の庭でこれに似た蛇を見たことがある。小さくて綺麗な色をした蛇だったが、私を見ると体を縮め、口をかっと開いて威嚇してきた。蝮かと思い、牛乳の瓶に押し込めて蛇屋のかみさんに見せたところ、これは花蛇ですよ、無害ですと云われた。
 あの蛇は川に流したが、その蛇がこんな遠くまで来るはずがない。しかし、蛇という生き物はどこか神秘的で、北欧神話のミッドガルドの蛇や、日本神話のヤマタノオロチなど悪の権化として登場するが、一方で、正月の蛇の夢は吉兆として歓迎される。
 ヒルギの森に雨が降ってきた。ヒルギの胎生種子がぱらぱら落ち、柔らかい地面のささって、またヒルギになる。その永遠のくりかえしだ。
 無限大の記号は横になった8の字だが、これは尻尾をくわえた古代エジプトウロボロスの蛇からきており、これはりぼんを一回ひねって先をくっつけた後代のメビウスの輪に関係している。
 メビウスの輪は表と裏がつながっていて、表と裏は別という常識に冷や水を浴びせる一種の形象表現だが、同じようにクラインの壷というのがあって、これは壷の先を壷自体に押し込み外に開口させたもので、内側がいつの間にか外側になる。数学者はいろいろ面白いものを考えだすものだ。
 私たちがすんでいるこの宇宙の直径は150億光年ということだが、実際には光が届く範囲を見ているだけで、その外側はどうなっているのか分からない。ひょっとしたら、クラインの壷のように曲がっていて、その先の宇宙がすぐ近くに開いているのかもしれない。
 雨が止んで、沖縄の空に虹が懸かった。その七色の虹は美しく、空に大きく伸び上がった大きな蛇のようにも見える。