食う(71)

 食う、食う。朝飯を食う。朝はパンを焼き、バターやジャムをつけて牛乳で食う。食う、食う、昼はカレーを食う。炊飯器で米を炊き、鍋で玉葱を炒め、じゃがいも、にんじん、牛肉を煮込んだものに、インスタントのルウを加え、飯にかけて。食う食う、晩は、魚を食う。鍋に鯖の切り身を並べ、醤油、砂糖を加えて煮る。ほうれんそうをゆがいて、ごま醤油であえ、碗に飯を盛って食う。
 テレビでは、いつものように大食らい選手権をやっている。ギャル曽根とかいう大食い女がわんこそばに挑戦している。もう、重なった碗はすでに二百は越している。
 NHKに戻ると、中国四川省地震災害のニュースだ。腹がへったという旗を掲げる老人、援助物資を取合う男女の姿が映し出される。サイクロンに見舞われたミャンマーの子どもたちの空ろな目、痩せた身体。
 この同じ地上に、餓えで苦しむ国があるのに大食い選手権を放映する国。人民が飢えているのに、軍の体制維持を優先する国。この世界はいつからか狂ってきている。

 平野のかなたで火の手があがる。帰ってくる兵士ら血塗られて。宴を待つ大鍋の中、巨大な魚がゆっくりひれを動かし泳いでいる。 鍋の下に油は燃えあがり、予言者ヨナは顔をそむけて、傍らで泣く。兵士よ何をする。おまえたちはそうして ひとびとの未来を殺すのか。やがてヨナの魚、ぽっかり白い腹を見せ 湯気の中で煮えたぎる。 
 やがてヨナの魚の肉、皿に盛られて、兵士らどよめきの声をあげる。
 (神のいいつけから逃げ出し、嵐の海の中に放り込まれてしまったヨナは、溺れかけたところを、大きな魚に呑みこまれて、三日三晩過ごしたあと、アッシリアの地で吐き出されたという)旧約聖書より。