最終処分場(58)

kuromura2007-10-16

 見渡すかぎりの視界にテレビや洗濯機、冷蔵庫が転がっている。ここは、ごみの最終処分場。少しの風にもビニールや新聞紙が捲れ上がる。暗い空。ごみの山の上を舞う無数の黒いからす。そのつんざくような鳴き声。
 ごみの山は先の堤防まで連なっていて、そのすべてが人間が捨てたガラクタだ。 
 堤防の向こうは海。低く垂れこめた雲間で稲妻が光る。この光景にはなにか恐ろしい沈黙がある。その押し殺した声の中に予言された世界の終りが見える。
 私はここの管理人だ。今日は日曜だが、いつものとおり建物の窓からごみの山を見ていた。巨大なごみの山の上に小さな人間が何人も蠢いている。顔をタオルで隠し、手足は黒く汚れすすけているが、間違いなく人間だ。
 実は半年ぐらい前からあの連中はここに勝手に入りこんでいるのだ。連中はガラクタの中から使えそうなものを選んでは外に持ち出しているし、私はリベートをとってそれを黙認している。
 でも、いいじゃないか。あの人間たちがごみを取って減らしてくれるなら、すでに満杯になって、役目を終えたこの処分場が蘇るというものだ。
 りりり、その時、室内の電話が鳴った。市長からだった。市内の環境保全団体が今からそちらに見学に行くとのことだった。
 寝耳に水とはこのことだ。私はあわてて場内放送用の機械のところに駆け寄ってマイクを握った。この状況を見られるのはいかにもまずい。
「場内の皆さん、すぐに外に退去して下さい。警察がやってきます」
 マイクの音に皆がいっせいに振り向いた。警察が来たと云えば、彼等は外国の不法滞在者だ。手も無くおとなしく出て行くだろうと踏んだのは誤算だった。彼等は顔を上げたまま、私のいる管理棟に歩み寄ってきた。それから、ゆっくりと建物の壁を伝って登り始めた。かれらは巨大なゴキブリだった。