鳥(39)

 身体の大きさは子供の背丈ぐらい。羽根の色は青みがかった灰色。つるりと後方に伸びた羽毛の冠の下からぎょろりとした黄色い眼がおれを見ている。
 会社から戻ってやれやれとソファに上着を投げ出した時に、何か異様な気配を感じて窓のほうを見たら、そいつが居たのだ。
 そいつは窓際の衝立の上にとまっていた。もう一羽はベッドに居た。そっちのほうは、おれの赤いカーディガンを下に敷き、抱卵の姿勢で横になっている。
 なんだ。なんだ。これは。
 おれは必死になって考えた。
 そうだ。窓!。部屋の窓が開けっ放しじゃないか。今朝は、窓を締め忘れたまま部屋を出たのだ。こいつらはおれが会社に行ってる間に、これ幸いと入り込んだに違いない。
 この部屋はマンションの五階。時折出かける散歩の途中、近くの川で、よくこいつらが魚を取っているのを見かけたことがある。
 それにしても厭な匂いがする。窓枠のあちらこちらに白い糞がこびりついている。
 おれは鳥どもを追い出そうと、部屋の隅からゴルフのパターを持って近づいた。
 ベットの鳥は不安そうに立上がったが、衝立の上のやつは威嚇するように大きく羽根を広げ、くちばしを突き出した。すると突然、そこからぐるぐるいう言葉が聞こえた。
「それで‥‥わしを叩くつもりか‥‥」
 おれはぎょっとしてその場に立ちすくんだ。まさか鳥が‥‥人の言葉を。
「ほんとに忘れたのか‥‥わしらはおまえの父と母だよ」 
 ぐるぐるいう声が耳元で囁き、鳥の輝く黄色い眼がしばたいた。 ‥‥‥気がつくと、おれの手や身体は灰色のふっくらとした羽毛で覆われていた。遅い夕焼けが窓を赤く染めはじめていた。id:hatenadiary