村道(38)

 どうも、とんでもない場所にまぎれこんでしまったようだ。
 道は鋪装されているが、それが、だんだん狭くなってくる。道路脇には土が盛られている。それもたった今掘り上げられた新しい土のようだ。とにかく行ってみようと進むうちにっちもさっちもいかなくなった。道路の前方に大きな土の山があるのだ。
 車を下りて土の山の向こうを見ると、大勢の人が作業している。多分この村の人たちだろう。道路を掘り起こしているようだ。手拭をかぶった人が敵意のこもった目でこっちを見、あっちへ行けというように手を振った。
 どうやら戻れということらしい。
 それにしても工事中という看板もないし、ここに来るまで通行止めの立て札も見当らなかった。とんでもないところに来たもんだ。ここは何処だろうか。どっちにしてもこの先へは行けない。 
 いま来た道を戻るよりほか手がないか。
 ギアをバックに入れて車を後退させる。しかし五十メートルぐらい戻ったところで、その方向からダンプが現れた。
 どうしようか。ここは狭い一本道で避ける場所もない。仕方がないので脇の農道に入ったが、これが間違いの元だった。ダンプが過ぎ、前の道に戻ろうとしたとき、ぬかるみが車輪を空転させた。農道より道がかなり高くなっていることもあるが、ぬかるみで何度切換えても車が上がらない。
 溜息をつき、前方の青い山なみに目をやった。あそこに行くつもりだった。そこに生えている(やまなす)の写真を撮ることが目的だった。農道は山に向ってまっすぐ伸びている。この道を行けば、あるいは目標の場所に行けるかも知れない。
 気を取り直して車を発進させた。もう元の道には戻らず、でこぼこの農道のぬかるみにハンドルを取られながら、山を目指してまっすぐに走った。