からくり絵巻(21)

 昔ーと云ってもそう遠い昔ではない。昭和の初めぐらいまでの旧家には、隠居部屋というものがあったものだ。つまりは、現役を引退した老人が余生を過ごす部屋なのだが、私の家にもそれらしき場所がある。
 今は不要品の倉庫がわりに使っている中二階のうす暗いその部屋は、ほとんど足を踏み入れたことがないので、ねずみやいたちの遊び場所になっている。
 三月のある日、私は思いついてその部屋に入ってみた。積った埃を払えば、あるいは住めるようにできるのではと思ったからだ。
 転がった電気掃除機やテレビ、段ボール箱の向こうには、埃をかぶった昔の屏風や長持や箪笥がきちんと並べられている。
 何が入っているのだろうと、私は長持の蓋を持ち上げてみた。三宝や法事用の角膳。什器、紙にくるまれた漆器などだ。
 一方、箪笥の上段には雛人形。中段には布織の道具一式。下段を引き出すと、なにやら細い針金が詰まった半透明の丸い筒のようなものが入っている。
 私は、その丸い筒状のものを取り出して床の上に置いた。これはいったい何だろう。
 高さ五十センチ、直径二十センチぐらいの乳色の筒は、木製の箱に乗っていて、箱には金属の回し取っ手が付いている。
 私はそっとその取っ手を回してみた。半透明の筒がゆっくり回り始め、中がぼおーと明るくなり、ステンドグラスのように極彩色の絵が浮かび上がった。
 鳥がさえずり、花が咲き乱れる野原で、うすべりをまとった美女が髪を結っている。絵は動いて‥‥その細い指先に小鳥がとまり、女がにっこり微笑んでこっちを見た。
「あれは、お祖父さんが大切にしていたからくりよ。浄瑠璃にも凝っていたし。たしか、何とかせんぼんとか云ってたけど‥‥」
 後に親類の叔母が教えてくれた。