空間(20)

 どうも打ち上げは失敗したらしい。私が乗った宇宙船は地球を回る軌道を大きくはずれて、太陽系の外へ飛び出し、今は未知の天体の引力に引っ張られている。
 行く手に見えるのは、リングの形をした暗い星雲。そこから放たれる強い磁力に引き寄せられ、私の乗った船は、逆噴射も空しく恐ろしい早さで宇宙空間を落ちているのだ。
 周りには大小さまざまの形の石ころが漂っている。なかには宇宙船の残骸とも見える破片もあるが、これらは皆、私と同じ早さで飛んでおり、やがては例の星雲に衝突して蒸発してしまう運命にあるのだ。
 いずれにしても死は時間の問題だ。私は次第に近づいてくる暗紅色のリングから目を放した。どうせ土から生まれた者が土に帰るだけさ。ぼんやりした視線を周りの石にさまよわせている時、ふと、ある事に気がついた。同じ石でも左側の石がよりゆっくり動いているのだ。 
 私は船をそちらのほうへ少しずつ近付けていった。こうすればいくらか長生きできるわけだ。私は更に船を左に寄せた。そこではすべての石が静止していた。そこはリングの真正面で、リングの引力がそこでは完全に消えていた。私はその場所に宇宙船を止めた。こうしておけば、船内の食糧が尽きるまで生きていることができる。私はベッドに横たわりながら、リングについて考えた。
 この星雲も、宇宙のすべての物質と同様生と死の二つの働きを持っている。そして‥‥ここでは星雲の斥力と引力がリングの前方に大きな回転の筒をつくりだしているのだ。回転の内側は生であり、外は死。その境界は切り立つ断崖。私はその断崖に齧り付いて息をひそめている。
 すでに紅色の巨大な輪が船を呑み込まんばかりに広がっていた。その内側でかすかに青い光が瞬いている。新しい星が生まれているのだ。