星座(12)

 なんだか眠れない。寝床で転々として、かれこれ二時間。寝付きが悪いほうではないが、深夜番組のSF映画を見たせいか。どうにも眼は冴えるいっぽうで、始末におえぬ。コートを被り、玄関から外に出た。
 黒い松の梢に月が懸かっている。庭から通りに出ると、夜空を星が埋め尽くし、地平線に近い星座はネオンのように点滅を繰り返している。
 前を黒い人影が行く。なお闇を透かして見ると、前にも後にも何人もの人影が歩いている。いつか私は同じ方向に歩く人の集団に取り囲まれるように歩いていた。それにしてもみんなどこに行くのか。
 前方で、ごーんと鐘の音が聞こえたかと思うと、急にあたりが明るくなった。いつの間にか、私はアセチレンとイカ焼きの匂いがする賑やかな夜店の通りを歩いているのだ。
 ちりんちりんと鳴る風鈴の音に混じって、じゃりんと銅鑼の大音響。どうやらお寺の夜店の列に紛れ込んだようで、私は明るい店頭に並んだ花火や、ぶら下げられた仮面の陳列を眺めながら歩いていた。
 隙間なく並んだ仮面は白い月光仮面や銀色のウルトラマン。ふいに、中段の黄色いポパイの口から、ぷおーという音色がして、蛇の首が出てきた。店番の男が吹き口のしっぽに口を当てて吹いているのだ。
「ああ、びっくりした。なんだ、蛇の造りものの紙のおもちゃか。それに、ウルトラマン月光仮面もみんなただの薄っぺらなプラスチックじゃないか」というと、
「おいおい、われわれは本物だよ」とウルトラマンが口を開いた。
 とたん、仮面の群れがさっと翻って、ずんずん上に昇っていき、あれあれと思う間に、天の椅子におさまった。急にあたりが静まりかえり、すべての仮面が黄金色の菩薩や観音になって、空の高みから、私をじっと見下ろしている。見下ろしている。