乱気流(11)

kuromura2005-08-04

 川で魚釣りをしていた時のことだ。
 上流のほうで子供たちがいやに騒ぐので、そのほうに行って見ると、流れが淀んだ場所で、大きなみずすましが、水面をぐるぐるまわっている。
 普通みずすましというのは、てんとうむしぐらいの大きさの黒い水生昆虫だが、その虫はかなぶんぐらいもある。
 子供たちは私の手にすがって「捕まえて」とせがむ。こんなに大きいのは初めてで、なんだか気味が悪いが、幼い子に頼まれては断れない。おっかなびっくりで、捕まえにかかった。
 まず、みずすましが輪を描いて回っていく方向を計算に入れ、その頭のほうから手を水に差し入れていく。みずすましの軌道は急には変わるまい。思ったとおり、虫は向うから手の平に突き当ってきた。だが、ぎゅっと握りしめたとたん、ちくりとした。
「ひやあ」
 どうやら、虫に咬まれたらしい。
 手からみずすましが飛び上がった。
「あーあ」
 子供たちは、虫が消えていった方角を見ていっせいに溜息をついた。
 その時、空になにか異変が起きたようだ。
 急にあたりが真っ暗くなって、強いつむじ風が吹き始め、宙を舞う木の葉の中から、不意に毛むくじゃらな巨大昆虫が現れ、子供たちを襲いはじめ、私は盲滅法に手を振り回して‥‥。
 気がつくと、あたりは静かになっていた。西の空には、赤い透明な水がたたえられていて、白いイルカやジュゴンがゆらゆら漂っている。その中で、川にいた子供たちが足をばたばたさせて遊んでいるのも見えた。
 それはまるで、透明なガラスの水族館がそのまま空に浮んでいるような案配だ。
 みずすましは鞘翅目の昆虫。同時に水中と水上の景色を見るそうだ。