巨人(6)

 小屋の中は夥しい数の道具の山だった。無秩序に放り込まれたそれらは、梯子や釣瓶、かめなどの日用雑貨はもとより、鍬、鋤、むしろ、鎌などの農具に、木槌、へら、糸車などの工具類も含まれ、小屋の天井まで乱雑に積み上げられていた。
 全体が、ふわふわした蜘蛛の糸や白っぽい埃に覆われていたが、共通して何か奇妙な感じがあり、その一つ一つに触れるうち、どうにも消えない疑問が残るのだった。
 それらは通常の道具とはかなり寸法が違っていて、その形や作りから異常に大きな生き物の気配が感じられるのだ。いったいこの小屋の持ち主は誰なのか。
 どこからか、微かな震動が伝わってきていた。それにつれ道具の一つ一つが動き始めているようだった。
 今まで埃に覆われていた道具類が油を塗ったように光り、きらきら輝く無数の繊維がそれらを包んでぴんと張っている。今や震動ははっきりと分かるぐらいに大きくなり、小屋全体の空気を震わせ、道具を揺すり、私自身の肉体にも一定の鼓動を送り続けていた。
 不意に、小屋がゆっくり回転するのを感じた。小屋の中の道具もその位置を少しずつ変えていた。どうやら繊維の網が、一切を取り込むようにある方向に引っ張っているようだった。私のいる場所が次第に窮屈になり、私自身も道具とともに上方に押し出されていくようだった。そして押し出されながら、私は、その小屋の持ち主の確かな意志を感じていた。
 急にあたりが明るくなった。小屋の屋根が開いている。私の下にある梯子がゆっくり回転しながら持ち上がり、私自身の体が小屋の中のどこにも居られなくなった時、私はその小屋の外にいた。
 私は、柔らかいえんどう豆の蔓の先端にとまっているのだった。