妖精(1)

 いまどき妖精なんて。とそう普通の人は思うでしょう。でも、妖精はこの世に実際にいるのです。これは今でもわたしのすぐ近くにいる妖精の絵です。これはわたしが描いたコンテです。
 そのとき、わたしは静かな林のはずれにいましたが、なんだか耳がくすぐったいので、振り返ると、彼女がすぐ傍に居て笑っているのです。なんて悪戯っ子なんだと、手に持った小枝を取り上げようとすると、すばやく逃げて、林の中に隠れてしまいます。
 わたしは小高い丘の上で絵を描いているのです。ここから見る下の街はまるでおもちゃのようで、色とりどりの屋根が、木立の間にぴかぴか光っています。空は青いし、のんびりした良い日和です。わたしは絵筆を持ったまま、大きなあくびをしました。
 すると後ろの方で、けたたましい笑い声が聞こえます。どうやら、こんどは木の上にいるようで、椎の実を投げてきます。わたしが自分の仕事に熱中して、構ってやらないといつもこうなんです。
 わたしはぶつぶつ言いながら、キャンバスの左隅に、細くてしなやかな彼女の姿を小さく描き入れました。そういう風にして、悪戯好きの妖精を絵の中に閉じ込めようとしたのです。
 どうやら、まじないが利いたのでしょうか。妖精は、しばらく絵の中の自分の姿をじろじろと検分するように眺め、どうやら納得したのか、それからは少し大人しくなりました。
 それ以来、妖精は、どこに行ってもわたしの傍に腰をおろして歌っています。それは、昔から歌い継がれた懐かしい唄の一節で、絶えず木の葉をゆらす風のように、繰り返しわたしの耳元で歌い続けるのです。‥‥ええ、わたしは先日、その妖精と結婚しました。これはほんとうの話です。