チーコと私の病床日誌

(平成25〜26〜27年)


 私は、平成25年7月3日に、近くのH病院に入院しているが、その前のことはよく覚えていない。なんだか体がきつく、台所から茶の間に上がったところで横になったのは記憶しているが、それ以後はどうなったかよく分からない。
 妻の書いた日記帳を見ると、6月26日に38度の熱が出て、その後も熱が下がったり、上がったりで、(後から考えると熱中症ではなかったかと思うが)氷で冷やすのが大変だったようだ。近所のSさんの奥さんには、いろいろとお世話をかけたようだ。
 7月3日に、救急車で運ばれて入院したときは、私を担ぎ上げる何人かの男たちの声が聞こえたが、あれは夜だったのか。どしゃぶりの雨が降っていたような記憶が残っている。(妻の日記では晴になっているが)
 H病院の診断では、心身耗弱、栄養不良。四人部屋のベッドに寝たまま、点滴と食事。また、左肩の痛みが激しく、夜中にうめき声を出すため、看護婦から文句を言われた。肩の痛みが何なのか。専門医が居ないため、息子に連れられて県の病院で色々検査を受けたが、原因は分からず、カラー(コルセット)を買わされた。
 肩の痛みに耐えながらの病院生活。痛み止めと軟下剤を貰いながら、「おむつ」をしたままのベッド生活。たまに無理して自分でトイレに行くが出ない。7月22日朝、食事中に吐き戻した。原因は糞づまり。その晩、看護婦が半分ほど便を掻き出してくれ、1日おいて、やっと浣腸を2本打ってくれた。その結果2日目の夜大量の便が出た。
 私は知らなかったが、私が入院してから5日経った7月8日、妻が脳梗塞で倒れた。M医院の診療費明細書の日付ではそうなっている。そして翌日の9日に大学の病院に入院している。大変だったろう。次男が家に居たから良かった。
 次男の世話で、私は、7月25日にH病院を退院し、同日市内北部のK病院の3階に入院し、妻は7月27日まで医学部にいたが、同じ病院がいいだろうと、K病院の2階に変わっている。次男はこんどのことで長期休暇をもらっている。
 K病院では、入院してすぐ、レントゲン写真と胃カメラ(吐き気がすると言ったら鼻から麻酔薬を注いで挿入)。病室は3階の個室330室。大腸炎と診断され(E医師)、点滴の管を見上げながら、水も飲めない絶食の日が続く。
 2、3日経つと、こんどは大腸がんの検査という。がんと診断されても治療する気はないので、しばらく待ってくれるよう頼んだが、そういう規程だからと押し切られる。当日は、吐き気でバリュームが飲めないので、浣腸3本で腸を洗い。約15分の大腸検査に耐える。検査結果は良。癌は見つからず。当初の診断どうりの大腸炎だった。
 翌日から、早速、薬と食べ物が来た。最初はコーヒー味やジュース味の飲み物(あれは、カロリーメイトを溶かしたものだろうか)。2、3日経つと、食事になったが、すべてミキサー処理されたおかず(形は作ってあるが)とおかゆで歯ごたえがない。
 担当のE医師は、毎日見舞いと病状の報告に来てくれる。その後、普通の7分炊きのご飯に変わったが、3割、5割、8割とその日によって、全部は食べきれない。やはり、E医師が言うように、腸の粘膜が完全に回復するまでは、時間がかかるのだろう。
 8月1日(木曜)、夕方、3階の部屋で、次男が連れてきた妻と久し振りに会う。車椅子の妻。白い三角巾が左手を隠している。7月のはじめにH病院に見舞いに来て以来。声が小さいが、元気そうだ。
 8月2日(金曜)、近所のSさんが、妻を見舞ってきたと報告に来る。私が判るねと言ったら、ぽんと頭を叩かれたと笑っていた。 
 8月3日(土曜)、どうにか、カーテンを開け、食事後、初めておしめに大便をする。介護婦が洗髪してくれる。腸炎はレベル3に下がる。3時半過ぎから、次男に連れられて、妻が何回も来る。
 8月4日(日曜)、朝5時、ポータブルトイレに初めて排便。離乳食のような食事に食欲無く、朝食は4分の1程度しか食べられない。次男にメールを送る。
 8月5日、朝から雨。今日からおかゆになったが、それほど変らない。11時、リハビリの歩行指導。
 8月6日、晴れ、窓の外にやんまトンボとつばめが飛んでいる。朝食は8割方、昼食は5割方。腸炎は1ベクレルに下がる。3時に次男が車椅子の妻を連れて来る。会話は全く普通で、これで左の手と足の麻痺さえなければ、と思う。夕方、妹が来る。
 8月7日(水曜)、朝食5割、介護婦二人が、寝たままの私に下洗いと足湯をしてくれる。11時からリハビリ。昼食5割。E医師が来て、2階への移転が9日になるとか。点滴も今夜まで。夜食2割。夜、ポータブルトイレに尿パットを落としたことで、男の介護士に叱られる。後で介護婦にそのことを話したら、わざと落としたわけでないのにねと同情される。
8月8日、朝食5割、大便中程度。その後、部屋のテレビで甲子園野球を観る。リハビリのHさんの従兄弟の子も出ていたとのこと。4時過ぎ、次男が妻を連れて来る。その後、妹が牡丹餅や漬物を持って来る。妻が喜んで牡丹餅食べる。
 8月9日、朝大便。朝食3割、11時半、二階の237号室へ移動。療法士の紹介。次男がサンドウィッチを買ってきてくれた。実は、こっそり一階のコンビに行って、おむすびを買うところを介護士からとがめられたことがあった。この頃から、歩行器を使って歩けるようになっていた。
 8月10日、朝食前、食堂に妻が来ている、というので、行ってみると、一人ぽつんと寂しげな様子。声をかけると、離婚してくれと言う。またすぐ、トイレに行きたいと言う。介護士に連絡して、連れて行ってもらうが、出なかったとのこと。後で、リハビリをしているところに行くと、こんどはにこりと笑う。わけが分からない。昼過ぎ、長男夫婦が、私たちそれぞれに豪華な花をもって来てくれた。妻が長男の嫁に、私が女と同居していると言う。
 8月11日(日曜)、このところ頻繁に小便に行く。朝5時過ぎに、妻がナース室にいると連絡をうけたが、行かないことにした。妻は、一人部屋の208号室にいるが、一人では寂しいといつも言っているらしい。7時半に採血。その後、部屋担当の介護士が来る。彼には、かねがね食事を普通食にしてくれるよう。また、薬も3階にいた時のままなので吐き気止めなど、減らすよう頼んでいる。手、足のリハビリの後、4時から妻のリハビリを見学、5時半、妻の部屋へ行く。
 8月12日(月曜)、朝食6割。担当介護士が来室、食事内容と薬も少しづつ変るとのこと。飲み込みと手のリハビリの後、昼食は普通食、薬も変った。2時、頭のCT検査。2時半、院長の初めての回診。夕食5割。妻のところに行ったら、次男も来ていた。妻は、例によって、一緒に居たいというがどうしようもない。
 8月13日、朝食6割、11時〜12時、足のリハビリ。昼食は完食。1時〜1時半1ヶ月ぶりの風呂。4時〜5時半、妻の部屋で次男と歓談。次男に洗濯物とはがきを託す。
 8月14日、夜はトイレに3〜4回行く。食事は8割ほど食べるが、ジュースが飲めない。9時過ぎ、リハビリ中の妻が,おじさん、おじさんと涙声。夢でも見たのだろうか。探してくるね。と慰める。11時足のリハビリ。1時半から手のリハビリ。2時半〜3時半、妻のクローバーの会(塗り絵とか積み木)に参加。妻は寝る前8時半ごろ、睡眠導入剤を飲ませられているようだ。
 8月15日、最近、朝食前に大便するようになった。聞けば、妻は3時に起きて食堂にいるとのこと。7月分の請求書が来た。私38307円、妻29180円。8月一杯に納めればいいと次男に託す。桜餅、果物、漬物など持って、妹が来る。
 8月16日、6時45分妻の部屋へ行く。まだ眠っていたが、起きたいというので、起こし、介護婦と車椅子に乗せる。コンビにで爪切りを買う。1時半入浴。2時〜3時、次男が医師、ケアマネージャーと面談。介護保険の申請のため、お達者クラブに行くとのこと。夜、担当介護士が、妻を連れて来るが、憎まれ口を言うだけですぐ帰った。
 8月17日(土曜)、朝6時前に大便。妻の部屋に行くと、もう起きている。妻は、私がどこかの女と一緒にいると思っているようだ。妻の嫉妬心、妄想には辟易する。つい、怒ってしまう。朝食9割、11時に足、1時半に手のリハビリ。昼食後、飲み下しの練習前の妻に、次男の持ってきた梨を食べさせる。コンビニでドーナツ風の菓子を買って食べる。
 8月18日(日曜)、朝食は完食。(これまで部屋で食べていた食事を、この日から食堂で摂るようになった)。体重44,2キロ。昼食8割。1時から手のリハビリ。午後、次男に連れられて、妻来室。(次男の話では、妻の左手がピクリと動いたという)一緒に3階のベランダの花を見る。妻の状態は良い。夕食8割。
 8月19日、昼食後、かりんとうを買いにコンビニへ行く。妻のリハビリを見学中、院長から、私は9月の退院が望ましいといわれる。夜、8〜9時、事務室にいる妻と過ごす。(パソコンが置いてある事務室は、介護士婦の溜まりで、大抵1〜2人の車椅子の入院患者が居た)
 8月20日、朝食10割、午前中の足のリハビリを終えて、1時半から入浴。その後2時半から3時半まで、妻の手のリハビリを次男と見学。4〜5時眠る。6時の夕飯は完食。
 8月21日、7時起床、7時40分着替え。8時10分、朝食を完食。足のリハビリの後、昼食はちゃんぽんだった。手のリハビリの後、文庫本「昔話の深層」を借りて読む。
 8月22日、朝食はパン。事務局から、妻の部屋が、ナースステーションの隣、三人部屋(242)に替わると言ってくる。これで、少しは淋しくなくなるだろう。夕食は完食。
 8月23日、1時半〜2時風呂。諫早の親戚親子が来るが、すぐ帰る。妻の狭い部屋で、次男と三人果物を食べる。夕食後、妻を見舞う。隣のいびきをかいて眠っている老女の様子をしきりに見ているので、話しかけて眠らせる。
 8月24日(土)、2時ごろ、食堂で飲み込みのリハビリを終えた妻に、葡萄を食べさせていると、妹、ついで次男が果物を持ってきて、冷菓、無花果など食べながら、色々話をする。夕食後、妻を私の部屋に連れて行き、最後は妻の部屋に戻って寝かせる。介護婦がおしめに替える。
 8月25日(日)、3時半体重測定、45キロ。4時、妻を事務室から私の部屋へ連れて行き、饅頭を食べさせる。
 8月26日、3時半回診。次男、4時から妻のリハビリを見学。その後、夕食時も同席。28日の外出届けを出しに行った時、事務室に居た妻が、突然「もう、わがまま言わない」と言ったときは嬉しかった。