チーコと私の病床日誌(8)

平成26年4月3日、小雨、昼からホームへ。2時から、森林公園へ、みんなで花見に行くとのことで、妻だけは、私の車の助手席に乗せて行く。生憎の小雨で、車の中からの桜見物になったが、こうした企画は有難い。
4月9日(水)、ホームを管理するS病院の窓口で、リハビリをしてくれる職員を派遣出来ないか訊く。制度上出来るか、検討するとのこと。
4月12日(土)曇、S病院から様子を見に来た由、妻から聞く。リハビリの計画を立てるものと思われる。妻とは、ただ、一緒に暮らしてきたというだけではない。これまで、妻を中心に回っていた生活が、今は、いっぺんに壊れてしまった。また、家に帰って来て欲しい。
4月23日、昼から、出かけ、森林公園で弁当。1時半ホームへ行くと、お茶の仲間のIさんとTさんが見舞いに来て、賑わいでいる。3時、ホームの推進委員会に、家族代表で出席。ここでは、季節ごとに行事を企画しているが、日常のセラピーとして、小鳥、熱帯魚など飼ってはどうか、また、ここの北側は、駐車場になっていて、殺風景だ、空き地にコスモスをの種を蒔いたらどうか、などの意見を出す。
5月3日、晴、前日帰宅した長男と、10時ごろホームへ。管理人の特別の許可(通常は院長の許可が必要だが、連休中で病院が休みなので)をもらい、車で家に連れて帰る。しばらく、外の樹の下で休み、それから、家の中へ入り、まず仏前でお参り。昼食は、長男が買ってきた寿司。久しぶりの帰宅で、妻も嬉しそう。座り椅子に掛けて、テレビを見る。トイレに行く時もどうにか歩ける。夕食は、長男手作りの「おじや」。美味しい美味しいと食べる。6時45分ホームに戻る。
6月13日、「寓話」(詩と小さな物語)が出来たので、妻に届けに行く。
7月1日、これまで、「寓話」を80冊ほど、知り合いや図書館に持参、配布。
7月3日、午前中大雨、洪水。小屋の中まで水が入る。林間学校の孫から来た葉書に返事を書く。テレビで、一人一人が孤独という内容の「島」という映画を観る。淋しい。
7月5日、5時から、JINで出版お祝いの会。参加者4名。
7月6日(日)、今日も雨が止むことなく降り続いている。テレビを見ても面白くない。思うことは妻のことばかり。溜息ばかり出る。煙草を吸う。パソコンでゲームをする。雷が鳴っている。
7月7日、駅の本屋に「寓話」を7冊入れる。ここは、人の出入りは多いが、郷土のコーナーは店の一番奥にある。
7月13日(日)、朝食のパンの後、M病院の血圧の薬を飲んだら、血圧が下がり過ぎて、めまいがした。明日は飲まないでおこう。
7月14日(月)、小雨、ホームへ。妻は大分慣れた様子。もう淋しいとは云わなくなった。今は、こっちが淋しい。
7月15日、O家から中元で、うなぎの蒲焼が送ってきた。有難い。
7月16日、このところ、血圧100前後が続き、めまい、倦怠感があり、気分が落ち込んでいる。M病院へ行き、薬を減らしてもらう。
7月18日(金)、晴、洗濯物を干し、3時頃から、蚊取り線香を焚き、草取り。萱の根を鍬で掘り、三輪車で運ぶ。
7月20日(日)晴、3時半から、表の竹生垣の手入れと草取り。芝生の中の萱の根を掘り起こしている時、突然の豪雨で中止して、上がる。
7月21日(月)、昼過ぎからホームへ。
7月27日(日) 曇、32度。10時半ホームへ。例によって、お菓子を食べている妻が、突然、泣き笑いの表情で、「あんた、モリツネね?」と訊く。次男かと思ったと云う。帽子を取って、白髪を見せる。その後、駐車場を車椅子で散歩。悲しい。
8月4日(月)、このところ断続的に雨。台風12号に続いて11号がやって来る。四国は大変だ。Mプリントから、本の請求書届く。
8月8日、O家から中元の葡萄が2箱も届く。二人では、とても食べきれないので、妹とSさん方に持って行く。Sさん宅では、コーヒーを頂きながら、小1時間ほど、近況を話す。
8月9日(土)、外は風が強い。夜、風呂上りにビールを飲む。テレビは面白くないので、9時半に寝る。
8月10日、ホームへ。妻は元気。リハビリをしているとのこと。しばらく来ないので、病気かと心配していたと言う。大丈夫だからと念を押す。
8月15日(金)、雨、昼ホームへ。食事前だったので、部屋へ行き、箪笥の引き出しの中を整理していると、介護婦に連れられて妻が来る。何か持ってきたかと訊くので、丸ボーロやあんころ餅をあげる。また、車であちこち行きたいねと言う。そうだね。Mさんと相談してみるね。小1時間。今日は、自分のほうから、食堂へ行く?と言う。食堂で、更新書類を書き、新しい保険証を渡す。帰るときは、自分のほうから、手を振っていた。
8月17日、夜、夢を見ている。公園、川べり、暗い夜道。家に帰ろうとして迷ってる。雨が降っている。ぬかるみ、水溜り。自分の家が分からない。
8月19日(火)草取りをしようと外に出たが、また、雨。一日、家の中にいてテレビを見る。退屈で詰まらない。
8月21日(金)、小雨後曇。ホームへ。妻は至って元気。敵みたいに食べるねと言ったら、悔しそうに、歯を見せて笑う。長男に電話。本をまた送ってくれとのことで、新しい部屋の番号を聞く。
8月26日(月)、竹生垣の裏から剪定。携帯に新聞社のY記者から、取材の電話。水曜の11時に会う約束をする。
8月27日(火)、今日は、広域連合の職員による介護保険の認定。10時にホームへ行き、ジンジャーの花を活ける。面談の後、稲荷寿司と焼きプリン。金子みすずのCDを聴く。妻は、車椅子でうつらうつら。
8月28日(水)、11時新聞社の喫茶で、Y記者と会談。「寓話」の掲載打ち合わせと顔写真撮影。「獣の眼」を進呈。
8月31日、君が、私を見詰める。私を見る君の目に気付いて、私は、君に対して誠実だったか、嘘をついていないかと、自分に確かめ、安堵する。そして、それからは、私が君の中に居て、君は私の中に居る。