勧食会(かんじきえ)(16)

kuromura2005-09-08

 今日は年に一度の勧食会の日だ。施主は、この地方では旧家の中牟田家。今では、姉妹の二人が住んでいるだけの広い屋敷には、朝から近所の主婦たちが集まり、姉のかじ取りで、炊き出しの準備に追われている。勧食会は一時には始まるのだ。
「まったく他人事のようだから」
 三宝に細切り肉を盛り上げながら、姉が妹を叱りつける。妹がぐずなのか、姉のほうがピリピリしているのか分らないが、妹がこのことにあまり熱心でない分、こうした行事は勝ち気な姉が仕切っている。
「いいわ、行ってくる」
 妹は三宝を持って立上がり、裏木戸から外に出る。そこには石の畜生供養塔が建っていて、その後はすぐ雑木山になっている。狸や狐が現れる気味の悪い場所である。
「ほおい、ほおい」
 妹は声をあげながら、雑木林の中に三宝の中の鶏肉を撒いていく。
 これは、中牟田家がかって毛皮商をしていた頃からの習わしで、山中に住む獣ー昔は熊や狼も居たらしいが、今は狐や狸などの動物の霊を供養する儀式なのである。
 銅鑼が鳴っている。
 供養塔の前には数珠を持った和尚ほか四五人が立っており、姉も線香をあげて拝んでいる。妹も戻ってきた。
「さあ、こちらへ」
 姉の後に続いて、和尚や、近所のお年寄りが家に入る。中では、すでに大勢の客が三宝に盛られた料理を前に座っている。
「それでは、みなさん、お待ちどうさま」
 姉のひと声で、やれやれと姿勢を崩し、料理に箸をのばす男客、女客‥‥‥やがて盃を持って歩き回り、肩を叩いて笑い合い、手拍子打って唄いだす。その姿はいつしか、狸や狐、狼、鼬、熊、あらいぐま‥‥和尚も猛々しいとらに変わっている。