檻(17)

 散歩には恰好の春の宵だ。仲間を誘い寮を出ると、堀端の満開の桜のはなびらがそよ風に舞っている。
「いいねえ、この生暖かい風」と彼。
「そうだな、すこし暑いぐらいだ」と私。
 堀端を過ぎ、左へ曲がると大学の門が見える。門のわきに、大きな銀杏の木が立っている。
「おいおい、学校に行くのか」
「いや、管理人の宮内に呼ばれているんだ。何か妙な生き物を見せてくれるらしい」
「妙な生き物?」
「なんか大学の構内に捨てられていたらしい。いのししに似た動物らしいよ」
「へえ捨てられたペットか。最近多いよな」
 話してるうちに管理人室に着いた。  
「おおい、来たぞ」
 部屋の窓から宮内の白い顔が見え、すぐ外に出てきた。
「こっちだ」
 先に立って案内する宮内は池のほうに向っている。
「どうも暗いな」
「ああ」
 彼は途中で木切れを拾っている。
 水をたたえた池の周囲には鬱蒼と潅木が生い茂っている。
「檻に入れているんだ」
 彼は、椿の木の下の木箱を、手に持った棒切れで指した。私と友人はその箱の前にしゃがみこんだ。
「よく判らないな」
 毛が白い豚のような動物が格子の後の暗闇の中にいるが、どういう形をしているかは判然としない。
 管理人が棒で突いた。ウウっという低い声がして、粗い歯を剥き出した動物の顔面が格子にぶっつかってきた。
「こいつ、犬と豚の混血じゃないか」
 管理人が気味悪そうに叫んだ。