竹林(27)

kuromura2005-11-25

 
 裏で爆竹がはぜている。また、近所の悪がきが集まっているのだろう。連中ときたら後始末は絶対にしないのだから。
 ちょうど葉代りの時期で、裏の竹林のあたりは剥がれ落ちた竹の皮や葉でいっぱいだ。小さな火種でも火事の原因になりかねない。私は家を出て、裏の竹山ほうへいってみた。 子供達は帰ったのか、誰もいないが、竹林の中で何か赤いものが見える。言わないこっちゃない。
 林の中は小暗いのに、地面のその箇所だけがぼっと灯が射したように赤い。
 かがんで竹の葉を掻きのけて見ると、ぽっかり明るい穴が開いていて、その奥がトンネルのように続いている。
 これは前の大戦の時の防空壕の跡だろうか。どうにかそこに潜り込むと、驚いたことに、穴の中は賑やかな通りになっていて、色とりどりの紙風船が流れ、銀玉、花火が敷き詰められた道を、ゆるゆる神輿が通り、ぱんぱんと爆竹がはぜている。
 大人も子供もいっせいにわっしょいわっしょい踊っているので、なかなか通れず、傍の提灯をずらりと下げた臨時の店を覗くと、
「あったかいおでんだよ」
 と中で人の良さそうなおじさんが開店の準備をしている。
「よってらしゃいよう」 
 焼き鳥の匂いがする暗い戸口から、艶めいた女の声が聞こえる。
 突き当りの広場で、子供たちがねずみ花火で遊んでいる。
 神社の階段の上の舞台には、竹の皮で作った帽子をかぶった巫女が独り座っている。
「ぱらりん」 
 琵琶の音色がした。顔にそばかすがあるものの、可愛らしい女の子である。
「べべん」
 演目はどうやら「かぐや姫」のようだ。