詩(こま)

独楽 


人を殺してみたかったという
少年のことが新聞に載っていた


近頃はふだんの生活にも用心が肝心
ふいの電話の勧誘にも
常に疑い警戒し
道で会う知らない人とは話もしない


人間嫌いではないが
誰も信用できぬので
少ないお金が頼り
テレビを見るだけの毎日で
同じ家で暮らす番犬が
唯一の親しい仲間


時々ふと
自分は人間というよりは
犬の仲間なのかと思ったりもするが
人の痛みを思う心はまだある
人を仲間だと思う心はある


人の輪に入れない少年は
輪の中の人を憎むのか
汚い団子虫と思うのか
それとも淋しさのあまり
人間の心に触れたいのか


人を汚いと思うのも
好きになるのも心だが
人を殺してみたいという
少年の心はあまりに悲しく
寂しい


少年よ、君は
人間を
好きになったことはないのか
街でだれかに
声をかけたことはないか
一緒に歌ったり
走ったりする仲間はいなくても
どこかに
その寒々とした心を
温めてくれる仲間はいないのか


少年の心を思うとき
心は痛む
自分とて
犬の仲間ではあっても
人間の友はなく
いつも
自分のまわりを
淋しく回っている
独楽のようなものだけど