詩(電鉄緑号)

ある朝 
切り立つ崖の新開地 
駅の改札口に駆け込んで
慌てて電車に飛び乗った


入口間違えたか 
青天井の車内は
さんさんと降る日光 
緑したたる若葉の間を
爽やかな風吹き抜けて
やおら告げるアナウンスが
「間もなく発車」と


 ーそれにしても
 あの声どこか聞き覚えあるような 
縁台から伸び上がれば
揺れる藤の花すだれの向こう 
ドアのそばの車掌が敬礼する
 ーおお、あれは幼なじみのくにおくん


思わず吹きだしたその時 
ベルが鳴り渡った 
今を押し流す過去の洪水に呑まれ 
目を閉じると 
つむじ風どどつと巻き上がり 
草花一緒にぐるぐる回って
電車が走る 
 ー振り返った運転手がにたり 
 あれは同級生のけんちゃん
 向かいで笑っているのはしげちゃん 
 やっと 間にあったねー


電車が走る 
走るー
億万光年の世界へ向って
花の電車が
走り続ける
裏返しになった
記憶の風景の中を
まっしぐらに