子犬(73)

 いったいここはどこなのだろう。会議室、控え室、ホール‥‥‥さっきから同じようなところをぐるぐる回っているだけで、面接室がどこなのか、さっぱり分らない。狭い廊下に赤い絨毯が敷いてあるので、多分、同じ建物の中とは思うが‥‥‥。
 薄暗い照明に照らし出された廊下は、蒸し暑く、空気が淀んで息がつまる。
 小会議室、大ホール、準備室‥‥‥。トイレはどこだろう。顔でも洗って気持を落着かせたい。こんどは下の階に行ってみよう。
 エレベーターで、地下まで降りたが、ここも同じような部屋が続いている。
 ああ疲れる。
 廊下を歩いて行くと、一つの部屋から低い男の声が聞こえた。面接試験室とある。
 ノックして扉を開けると、とたんに女たちの賑やかな笑い声が迎えた。
 三人の女に取り囲まれて、椅子に腰をかけた男が話していた。女たちはかなりの年輩だが、男はまだ若く、ジャン、ルイ、バローのような目をしている。
 ーここで面接があるのですか。と聞くと
 ーええそうよ。あなたもどうぞ。身体を診ますから、そこに横になって。 
 男がまたぶつぶつ話し始め、私は空いたベットに横になった。
 急にあたりに野生の匂いが漂いはじめた。
 いつのまにか、部屋の中から女たちの姿が消えて、代りに褐色のドーベルマンが三匹いる。
 部屋の中心に小さなピンポン玉ぐらいの白い豆犬がいて、悲しげな声で哭いていて、犬たちがそれを取り囲んで、交互に鼻を突き出している。
 遊んででもいるのかなと思ったとき、子犬が、不意に居なくなった。食べられてしまったのだろうか。はじめて恐怖が襲ってきた。