公園で(49)

 深く青い空間に、まわりの樹が逆立ちして沈んでいる。色んな形をした白い雲がつぎつぎに現れては流れていく。ここは森林公園。昔は河川敷だったところだ。
 おれは、この公園の一角、水飲み場がある近くのベンチで横になっている。きのうの晩はよく眠れなかった。というのも近くで夜遅くまで子供達が花火を上げていたからだ。放浪生活の拠点であるテントの中に入ったのは三時頃で、まだ少し眠い。
 公園の樹の梢でさえずる小鳥たちは、ぴーぴりり ちりりり、りりりり。それにしても、なぜあんなにすばやく動くのか。揺れる葉の間をきらめく宝石のように。
 こうして青い空を眺めていると、おれという肉体は、あの蒼い深淵の中へ今にも迷い込んでしまいそうだ。世間を遠く離れ、ホームレスと云われ、こうしてベンチで横になっているのは、あるいは夢の中なのかとも思う。 木の葉を渡る風の音が、昔聴いた教会のオルガンの音のように聞こえる。
 妻や子はどうしているだろうか。あの家はどうなったか。放浪の旅に出た当初は時々思い出していたが、近頃はあまり考えなくなった。何かを持っているということは、それに縛られることだ。それについて悩み続けるということだ。いまは生きるための最小限の道具のほかは何も要らない。
 白いむく犬に似た雲が浮んでいる。たしか、山村暮鳥の詩に「おーい、雲よ‥‥どこへゆくんだ」というようなのがあったっけ。
おれもあの雲のようにのんきで、自由で、わがままで‥‥それは、たまに淋しいと思うこともあるが、誰にも縛られない今の暮らしを捨てたくはない。
 ‥‥しばらく眠っていたようだ。あたりが薄暗くなって、どんよりした雲に覆われた空から、覗いた金色の目がぴかりと光った。
 ごうという風とともに微塵となった木の葉が渦巻き、氷の船が降りて下りて来る。