箱(30)

 まんまるの青白い月が森の上に懸かっています。
「ほう、ほう」
 深い森のどこかで鳴声がしました。今は午前三時ごろでしょうか。
 ばさりと羽音がします。ふくろうはいつも夜になると起きて、飛び回ります。たぶん暗い地面を走り廻るねずみなんかを取っているのでしょう。
 森の中ほどに、千年樫といわれる大きな樫の木があります。満月の光がちょうどその木の斜め上にさしかかって、その根方を照らしています。
 何でしょう。樫の下になにかこの森では見なれないものが見えます。
 白い箱です。オルゴールぐらいの小さな箱が木の根元に置いてあります。
 箱の蓋が開いています。覗いてみると、ああ、びっくり。不思議な顔つきの小人がその中にいて、大きな目を見開いています。
 いったい誰が置いたのでしょう。
 小人は生まれてからそれほど経っていません。まだ白い産着を着ていて、始めて見る青白い月を不思議そうに眺めています。
「ほう、ほう」
 また、ふくろうが鳴いています。
 こんな淋しい森に、誰が小人を置き去りにしたのでしょう。 
 きっとあの女です。この森に住むあの性の悪い女が置き去りにしたのです。
 今頃はふくろうのあとを追って、あの幽霊のような、気味悪く透き通ったからだで森の中を飛んでいることでしょう。
「ほう、ほう」
 また、ふくろうが鳴いています。
「ち、ちち」
 地ねずみが鳴きます。
 誰も知らない暗い森の中です。