まんまるの青白い月が森の上に懸かっています。
「ほう、ほう」
深い森のどこかで鳴声がしました。今は午前三時ごろでしょうか。
ばさりと羽音がします。ふくろうはいつも夜になると起きて、飛び回ります。たぶん暗い地面を走り廻るねずみなんかを取っているのでしょう。
森の中ほどに、千年樫といわれる大きな樫の木があります。満月の光がちょうどその木の斜め上にさしかかって、その根方を照らしています。
何でしょう。樫の下になにかこの森では見なれないものが見えます。
白い箱です。オルゴールぐらいの小さな箱が木の根元に置いてあります。
箱の蓋が開いています。覗いてみると、ああ、びっくり。不思議な顔つきの小人がその中にいて、大きな目を見開いています。
いったい誰が置いたのでしょう。
小人は生まれてからそれほど経っていません。まだ白い産着を着ていて、始めて見る青白い月を不思議そうに眺めています。
「ほう、ほう」
また、ふくろうが鳴いています。
こんな淋しい森に、誰が小人を置き去りにしたのでしょう。
きっとあの女です。この森に住むあの性の悪い女が置き去りにしたのです。
今頃はふくろうのあとを追って、あの幽霊のような、気味悪く透き通ったからだで森の中を飛んでいることでしょう。
「ほう、ほう」
また、ふくろうが鳴いています。
「ち、ちち」
地ねずみが鳴きます。
誰も知らない暗い森の中です。