風がざわついて、またぱらぱら松の葉が落ちてきた。
海からの風を受けて、ここの松はみな曲がりくねっている。倒れかかり、横になびくように腕を広げた黒い枝。蛇のようにかま首をもたげ、行く手をふさいだ大枝。座るにほどよい高さに低く垂れた幹‥‥。
さっきから松林の小道を歩いている。
病院はなかなか見つからない。道が途切れ、いつか私は柔らかい苔の上を歩いていた。白い梅鉢草の花が咲いている。茶色の茸もところどころにあって、足で踏むと黄色の煙を吐きだした。
松林の間に白い建物が見えてきた。あれが、私が紹介された病院だろうか。
すこし歩くと、まもなく病院を囲むフェンスに突き当った。内側に焼却炉があり、フェンスのところどころに白い紐のようなものが見える。風に飛ばされて、引っ掛かったビニールの切れ端だ。
「おやおや、かわいそうに」
突然、頭上から声が降ってきた。目の前に、だらりと垂れた一匹の蛇が行く手をさえぎり、赤い口を動かして喋った。
「重い病気のようじゃないか」
濡れているような黒い目がまっすぐ私を見ている。ディーズニーのアニメに出てくるような派手な蛇だ。
「病気だ」「病気だ」
急に、あたりがざわざわと騒がしくなり、フェンスの白い蛇が集まりだした。
「心臓の病気かな」
「精神科かな」
「いや癌さ、胃癌だよ‥‥‥」
それぞれ勝手に喋りはじめる。いや、まるで歓迎パーティのコーラスだ。
それは陽気な白い蛇たち。絹のようにきらきら透き通り、角度によっては全く見えなくなってしまうのだが‥‥松風の音は繰り返しざわざわと鳴っていて‥‥。