毛深い生き物(9)

kuromura2005-07-21

 ペットというのは、飼い犬や猫をはじめとして、人間の愛玩用に飼われるもので、ふつうは可愛いらしいものだ。
 しかし、家にいるペット(あれをペットと呼ぶならばの話だが)は何だろう。およそ人に可愛いという気持を呼び起こすような動物ではない。
 私はあれをどこかで買ってきたおぼえはないし、貰ってきたおぼえもない。ただ、いつのまにかあれのほうでここに居着いてしまったのだ。
 あれはいつも家の玄関先で寝そべっているが、それはちょっと見ると、茶色い玉葱の皮に似ているが、実は生きた動物であり、あるときは怒りっぽい犬であり、またあるときはふてくされた豚のようでもある。
 妻は、番犬になるからといい、運動と称して時々散歩になど連れ出しているようだが、その実は、自分の退屈をまぎらわすためのものだろう。
 今日も朝から散歩に行っているが、どこまで行ったやら、おおかた近所のかみさんとの際限のないおしゃべりに時間を費やしているのだろう。
 あれはその間、あたりの草むらをくんくん嗅いでみたり、遠方に動く自動車にのろい視線を向けたりしていることだろう。
 やっと帰ってきたようだ。あれは汗で湿った長い毛を広げて、もう玄関先の定位置で寝そべっている。
 あの場所が気に入っているのだろうか。それとも、自分の始めからの居場所だと思っているのだろうか。だとしたら、この家に住む人間の家族をどう思っているのか。
 あまり本気で付き合ったことがないので判らないが、私はこの生き物の存在そのものが厭わしく、その真意を計りかねている。たまにお義理ではあるが、撫でているうち、あれは、急に内からの力がみなぎって、ほとんど噛み付かんばかりの様子で私を睨むのだ。