螢(8)

kuromura2005-07-14

 空中に賑やかな花火のように、数々の光の模様が見える。
 あれは仲間の合図だろうか。それにしては仕掛けが派手すぎる。第一ぼくらの仲間の光は緑色だ。
 最近、街に近いここらあたりでも、ぼくら螢の仲間が増えてきた。役所が清流を取戻すための事業として、川の清掃運動を推進してきた成果だろう。
 場所によっては、螢川という人工の水路を造り、草を植え、宿主の宮入貝を放しているところもあるそうだ。
 ああ、なんだか目がちかちかする。あれはやっぱり花火ではない。花火だったら、ドンと云う音が聞こえるはずだが、プーンと小さな音がするのもおかしい。
 ぼくは、街の街路樹の茂みに止まっているのだが、さっきから気に懸かることがある。 何かの視線を感じる。どうも誰かに見られているようだ。網で捉まえようとする人間もいるのだから、ここはそうそうに立ち退いたほうがよさそうだ。
 それにしても、このチカチカする豆電球は困ったものだ。夜なのに雀まで寄ってくる。
 あれ、ここはどこだろうか。暗くて狭苦しいところに入ってしまった。どうも、どこかの家の天井裏らしい。蜘蛛の巣だらけでこわい。逃げよう。逃げよう。
 やっと緑の広がる場所に出た。まだ柔らかい葉っぱの茶畑だ。
 小川のそばの柳の木でほっと息をつく。橋が見える。ああ、やっと気持が落着いた。
 あの橋はお婆さんの昔からの場所。当時は浴衣を着たむすめさんが、うちわ片手で涼みながら、ほうほ、ほうたるこい、とか声をあげたそうだ。
 この川の流れだけは昔と変わらない。お婆さんのそのお婆さんの代から変わらない。ぼくらが育った懐かしい故郷の揺りかご‥‥だ。